- インタビュー
2023.03.29
【料理家:谷尻直子さん】昔ながらの食材を、日常に取り入れる方法を伝えていきたい
「店名につけた“ひとてま”というのは、手間をかけましょう、ということではなく、ひと手間しかかけませんよ、という意味を込めています。いろいろなものに手間をかけすぎず、でも、こだわりたいものごとには手間ひまを惜しまずに。そんなふうに暮らしていけたらいいですね」。
そう話す谷尻直子さんが立つのは、2020年6月に移転したばかりのレストラン「HITOTEMA」。テラスを設えた大きな窓から緑と街を望む開放的な空間です。
谷尻さんは、ファッションのスタイリストを経て、2010年に料理家に転身。常に新しいものをよしとするようなファッション業界の考え方がしっくり感じられなくなった時、「今度は服ではなく、食をデザインしたい」と考えるようになりました。その原点は、幼少時の体験だといいます。
「身体が弱くて外にあまり出られなかったので、台所で料理をする母をよく手伝っていたんですね。野菜の筋をとったり、ふきの皮をむいたり。つまみ食いしながら、子供ながらに季節の食材の味を体感していたように思います」
谷尻さんの“ひとてま”の理念は、料理にも取り入れられています。
「昔ながらの製法できちんと作られた天然発酵の味噌や有機素材の醤油、みりんなどを選べば、あとは季節の食材を合わせるだけでおいしくなるんですよね。それをシンプルに『おいしい!』と思える感覚を大切にしています」
今回紹介してくれた「とうもろこしのほかほか茶碗蒸し」も、まさにそんな一品。具は入れず、素材はとうもろこしと卵だけと素朴ですが、自然の甘味を丁寧にとっただしの風味と共に楽しむ、旬のとうもろこしのための茶碗蒸しです。
谷尻さんの料理に欠かせない塩麹も自家製。炊飯器で手軽に作れるそうですが、これが味に奥行きを与える名脇役なのだそう。
「塩入りのうまみ調味料のような感覚で使っています。バイタミックスに10秒ほどかけて、なめらかなペースト状にして使うことが多いですね。それをかぶや白身魚と和えて、桜やゆずなど季節のものを添え、コースのひと品として提供することも。汁麺のスープにも加えると、コクのある白濁スープにもなるんですよ」
レストランでの調理のほか、自宅でもバイタミックスを使っているという谷尻さん。10年前、料理家に転身した頃に購入したそうです。
「自宅ではもっぱら毎日の朝食のスムージーを作っています。定番はナッツミルクとバナナの組み合わせ。ナッツミルクもアーモンドと水であっという間に作れるんですよね。リンゴやレモンなどは種ごと使えるのも気に入っています。種というのは子孫を残すためのものなので、いつまでも元気に若々しくいられる効果があるそうなんですよ」
現在は5歳の息子さんにもスムージーの作り方を教えていて、いつか「お母さん、朝ごはんできたよ」といわれるのが夢だそうです。
谷尻さんには、ものを購入する時に大切にしていることがあります。それは、「買う前と買った後で、生活がどう変わるか、どう豊かになるか」ということ。
「生活が変わらないものは贅沢品ですが、豊かになるものは多少値が張っても買うほうがいい。バイタミックスはもちろん、いま愛用しているカメラや自転車もそうでした。生活に変化を与えてくれるものを買うことは決して贅沢ではなく、“豊かな買い物”だと思っています」
料理家に転身して10年、レストラン「HITOTEMA」をオープンして5年半。
「作り手と受け手が近く、反応がダイレクトにわかる今が一番楽しいです」
そう話す谷尻さんは、移転した新しい場所で、新しい日々を楽しんでいます。月1度のワークショップに加え、2020年5月からは出張料理や週1度のお弁当、ビーガン料理のオンライン・ワークショップをスタート。子供と料理をしながら料理や食の楽しさを教えるYouTubeチャンネル「こども飯」も開設しました。
レストランに併設されたテラスでラベンダーやローズマリー、山椒などを育てるのも楽しみの一つに。調理中に摘みに行って料理やドリンクに使ったりもするだとか。ほかにも、屋上に畑を作って収穫した野菜を料理に使ったり、テラスで少人数ウエディングをプロデュースしたり…と、今後に向けた楽しい構想は尽きません。
「最近、『私1人が生き残っても楽しくない』ということを強く感じています。だから伝えられることは積極的に伝えていきたいな、と思うようになりました。ワークショップなどでも、切干大根やいりこといった昔ながらの食材を、日常に取り入れる方法を伝えていきたいですね。そうした日本の古いものと人との新しい出会いを作れたら、と思っています」
【my recipe】旬のとうもろこしの甘味をシンプルに楽しむ
とうもろこしのほかほか茶碗蒸し
【材料】
[銀あん]
かつおと昆布の一番だし200cc、薄口醤油小さじ2、本みりん大さじ1、自然塩ひとつまみ、水溶き片栗粉適量
[卵液]
とうもろこし1と1/2本、かつおと昆布の一番だし300cc、薄口醤油小さじ1と1/2、本みりん小さじ2、自然塩小さじ1/4、卵2個(M)
【作り方】
[銀あんを作る]
かつおと昆布の一番だしを小鍋に入れ、薄口醤油、本みりん、塩を加えて火にかける。水溶き片栗粉を加え、とろみをつける。
[卵液]
①とうもろこしを蒸し、実を外す。飾り用に1列を10粒くらいの塊で取り分けておく。
②かつおと昆布の一番だしに、薄口醤油、本みりん、自然塩を加え、冷ます。
③②ととうもろこしをバイタミックスに1分ほどかけ、なめらかにする。
④卵を加え、バイタミックスに数秒かけてよく混ぜる(泡立つので混ぜすぎないこと)。器に入れる。
⑤蒸し器に器を並べ、水滴が垂れないように蓋に手ぬぐいをかぶせて13分ほど蒸す。
⑥蒸し上がったら、飾り用のとうもろこしをのせ、銀あんをかけて完成。
【profile】谷尻直子
料理家。完全予約制レストラン「HITOTEMA」(ひとてま)主宰。
東京都渋谷区の住宅街で「現代版おふくろ料理」をコンセプトにした「HITOTEMA」を主宰。ベジタリアンだった経験や8人家族の中で育った経験を生かし、お酒に合いつつ、身体が重くならないコース料理を提案する。食や器のプロジェクトなどにも関わる。近著に『HITOTEMAのひとてま』(主婦の友社)。
【shop information】HITOTEMA
東京都渋谷区上原(詳細は予約時にお伝え)
☎ なし 営 19:00 – 23:00(LO22:00)
※営業は毎週末を基本に週1回。
毎月10日頃にFacebook(下記)のみから翌月分の予約を受付。
URL https://www.facebook.com/hitotemashibuya/
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